前回の記事「巻来功士の『連載終了! 少年ジャンプ黄金期の舞台裏』を紹介(後編)」

 

前回、前々回の記事では巻来功士(まき こうじ)先生の『連載終了! 少年ジャンプ黄金期の舞台裏』を紹介しました。

 

 

「ジャンプ黄金期」と呼ばれる、少年ジャンプが600万部以上売れていた時代に、巻来先生はどのようにして少年ジャンプで漫画を描き続けていたのかを。

 

本当は前回の記事でこの本の紹介を終えようと思ったのですが、この本の最後の方で巻来先生の担当編集者を務めていたこともあった「堀江」氏との対談を読んで、もう一記事書くことにしました。

この対談が、ものすごく勉強になることを話しておられるんですよ。

 

話しておられる内容は主に、

 

・巻来先生はなぜ、担当編集者がコロコロ変わったのか?

・最近の漫画がダメになった理由

・ダメな編集者に当たってしまった漫画家にオススメする対応

・ハリウッドで尊敬される漫画家

 

それらの内容から、私がお話ししたいことはいろいろありますが、今回の記事では「巻来先生の担当がコロコロ変わった理由」をメインにお話ししたいと思います。

巻来先生の記事をまだ読んでない方は、是非前々回の記事から読んでいただければと思います。

 

 

興味がある方はこの記事から是非!

巻来功士の『連載終了! 少年ジャンプ黄金期の舞台裏』を紹介(前編)

 

漫画の世界に40年近く携わっている堀江信彦

 

最初に堀江さんについて紹介します。

 

堀江さんは巻来先生が少年ジャンプで初めて持ち込みして、最初に担当編集者になってくれた人です。

 

 

堀江さんはジャンプ黄金時代を築いた『北斗の拳』『キャッツ♥アイ』『シティーハンター』『よろしくメガドック』などを担当。

その後、少年ジャンプ5代目編集長となり、少年ジャンプ最高部数653万部を達成する。

 

2000年に集英社を退社。

同年に「㈱コアミックス」を設立し、代表取締役に就任。

「週刊コミックバンチ」「月刊コミックゼノン」の編集長を務める。

 

現在は漫画家や編集者の育成意外に、原作家・脚本家としても活躍している。

 

 

普通なら漫画の編集者になっても、10年~20年で漫画の世界を離れます。

しかし堀江さんは、40年近く漫画の世界に携わっています。

 

「売れる雑誌」「売れない雑誌」両方の編集長を務めた経験があるので、漫画業界をよく理解しておられます。

しかも編集者の立場だけでなく、原作家・脚本家として制作側の立場にも立っておられます。

 

だからこそ、深く漫画の世界について分析できるのです。

 

 

巻来功士の担当がコロコロ変わった理由

 

巻来先生は少年ジャンプ連載中に、担当編集者がコロコロ変わりました。

その理由について、堀江氏はこう話します。

 

「巻来君は縦系の人だったんだ。」

 

縦系とは、ストーリーラインのこと。

漫画にはもう一つ、「横系(演出やキャラクター作り)」が必要です。

 

巻来先生がジャンプに在籍していた当時の編集者が手助けできるのは、縦系(ストーリー作り)だったそうです。

 

 

巻来先生は担当が変わるとき、必ず言われていたのが、

 

「巻来君は1人でも話(ストーリー)作れるから大丈夫だよ」

 

 

当時の担当が得意とするストーリー作りをアドバイスしようと思っても、巻来先生は一人で作れちゃう。

しかも編集者以上に。

 

だから担当は「自分は必要じゃない」と感じてしまい、巻来先生から離れてしまったのだそうです。

 

漫画に大切なのは横系

 

漫画に大切なのは「キャラクター」だというのは、漫画界では通説です。

 

漫画は「縦系(ストーリー)3:横系(キャラクター・演出)7」くらいの比率で十分なのだそうです。

だから堀江氏は編集者たちに、「担当した漫画家を見るときは、この人は縦と横、どっちの才能があるかまず見ろ!」と言われるそうです。

 

 

大人気漫画『ワンピース』は、今ではストーリが複雑になってきてますが、昔はもっとシンプルでした。

そして作者の尾田栄一郎先生は、横系の才能がズバ抜けている人だと私は思ってます。

 

「主人公が悪者たちを倒す」

そんな感じのシンプルなストーリーでも、作者の尾田先生はキャラクターの見せ方で名作にしてしまいます。

 

悲しみ。笑い。怒り。

そんな喜怒哀楽を顔いっぱいに出して、熱いセリフで名シーンを創れる人だからです。

 

 

 

「ワンピース 名シーン」と検索すれば、記憶に残る名場面が山ほど出てきます。

 

 

 

 

こういったキャラクターの見せ場を作ることは、読者に熱いものを伝え、深くキャラクターを印象付けることができます。

 

 

当時の編集者が巻来先生に、

 

「この時のキャラクターの表情は、こういった感じのが良いんじゃない?」

「女の子はこんな感じの仕草にすればカワイイと思うよ!」

 

といった感じで横系のアドバイスができれば、巻来先生はもっと伸びたのではないかと堀江氏は言われます。

 

人間に興味がないと描けない

 

キャラクターを引き立たせる名シーンを描ける人は、「人間に興味がある人」だと私は思います。

人間が織りなす感情的な名シーンは、人間に興味がある人でないと描けません。

 

巻来先生は、人間にあまり興味がなかったそうです。

巻来先生は若い頃から小説・・・とくにSF小説が好きで、ストーリーばかり追いかけてました。

人間の営みを描くよりも、「ストーリーを描きたい!」という思いが強かったそうです。

 

だからネームを描いてるときも、ちょっと逸る(はやる)というか、焦る感じで「早く話の先を描きたい!」という思いから、短編小説のようにどんどん話を進めてしまいます。

結果、展開が早すぎで読者がついていけない漫画になってしまっていたと、自分の漫画を読み返した今、そう思うそうです。

 

 

人間に興味がないといえば、巻来先生と相性が悪かった担当「K」氏も、人間に興味のない人だったと堀江氏は言われます。

 

 

「彼はカタログ的な情報はよく知っていた。むしろファッション誌とか、そういうところに行くべき人材だったと、あの当時はみんな思っていたね。」

 

だから漫画家編集者っぽくなく、打ち合わせも必要なことだけ言って、淡々と終わらせていたのかもしれません。

 

 

このような編集者に当たってしまった漫画家は悲惨でしょう。

 

ストーリー・設定重視の『エニグマ』

 

ストーリー・設定を重視しまくってた漫画なら、私も一つ知ってます。

 

『enigma(エニグマ)』という漫画をご存じでしょうか。

 

 

週刊少年ジャンプで、2010年41号~2011年47号まで連載していた漫画です。

 

その頃の少年ジャンプは、新連載が打ち切り、打ち切り、また打ち切りと・・・新人の漫画が全然続きませんでした。

新人漫画家・・・というか、ジャンプ編集部が迷走しまくってた時代だったと私は思ってます。

 

どれも似たり寄ったりの漫画を読み切りで載せて、新連載させる。

で、2~3ヵ月で打ち切り。

そこから何も学んでないかのように、また似たような漫画を載せて打ち切り。

ずーっとそれが続いてました。

 

その頃のジャンプは、何か主人公に特殊能力をつけないと連載させないのだろうかと思うくらい、「能力」「設定」にこだわっていたように感じます。

そんなジャンプで連載されはじめた『エニグマ』は、その最たる例でした。

 

 

主人公や主要登場人物がそれぞれ一つづつ特殊能力を持って、夜の学校に閉じ込められるのです。

そして「e-test」というゲームが始まる。

 

 

それぞれが能力を駆使して脱出を試み、脱出した後も物語は続く。

 

とにかく、「ストーリー・能力・設定」を作りこんだ漫画だなーというのが、読んでいた私の感想でした。

頭の悪い私では絶対描けません。

 

 

しかし失礼を承知で言いますが、肝心の「キャラクター・演出」がパッとしないと感じました。

絵は丁寧に描いてありますが、演出に躍動感がないというか・・・なんか固い。

 

 

とくにキャラクターの表情が硬い。

 

1話目から読んでて思ってましたが、喜怒哀楽、どれも似たような表情をしているのです。

だからあまりキャラクターに魅力を感じないというか、盛り上がるシーンでいまいち盛り上がらなかった。

 

 

最初の方はそれでもキャラクターに魅力を感じさせようと意識して描いてる感がありましたが、後半は駆け足すぎて、淡々とストーリーの裏付けや設定を見せられてる感じでした。

 

エニグマの作者、「榊 健滋(さかき けんじ)」先生が人間に興味ない人かどうかはわかりませんが、巻来先生のようにストーリーを考える方が得意の人だったと思います。

ストーリーや設定は面白かったので、もったいないなと思っていたのが読んでた当時の感想です。

 

それでもあの打ち切りラッシュの少年ジャンプで、1年以上も連載を続けたのは、素直にすごいと思います。

 

 

当時の編集者が横系のアドバイスができなかった理由

 

話を戻します。

 

巻来先生には誰も演出・キャラクターのアドバイスができなかったと言いましたが、当時のジャンプ編集者が皆、人間に興味のない人だったというわけではありません。

むしろ、人間に興味のある人が多かったそうです。

 

巻来先生の担当になった「マツイ」氏も「クンタ」氏も、人間に興味を持っている人でした。

とくにクンタ氏は、人間に興味アリアリで、自分がおどけて人を楽しませる人だったそうです。

 

 

だったら何故、横系のアドバイスができなかったのか?

 

彼らが編集者になった頃は、漫画よりも小説の方が人気の時代だったというのが、大きな原因の一つです。

 

今でこそ漫画というものは、アニメになったり、ドラマになったり、映画になったりと、その存在を大いに知らしめています。

「漫画大国日本」として、世界中でも大人気となった存在です。

 

しかし昔はそうではありませんでした。

昔は漫画よりも、小説と映画の方が注目度が高かったのです。

漫画が出来てまだ間もない時代だったので、「漫画=バカが見るもの」という印象を持たれていました。

 

ジャンプ編集者の人達もそうでした。

彼らのほとんどが、好きでジャンプの編集者になったわけではなかったそうです。

 

その頃の編集者達は小説大好きの文学青年で、集英社に入ったのも小説の編集者になりたいから入社したそうです。

それがジャンプという漫画に配属されて、彼らは皆、その配属に不満をもらしたそうです。

堀江氏も「え~? ジャンプ!?」と、大いに不満だったらしいです。

 

巻来先生の少年ジャンプ最後の担当になった「O」氏が、漫画について何もわからなかったのも、そういった理由だと思います。

 

 

文字ばかりで情報を伝える小説を読んできた人たちだったので、演出やキャラクターの仕草、表情など、そういったアドバイスをする技術がなかったのです。

 

 

『北斗の拳』の作者、原哲夫先生は巻来先生とは逆で、完璧に横系の人だったそうです。

演出やキャラクターは出来るが、ストーリーが作れない。

それを当時担当していた堀江氏が、ストーリーを作ってあげていた。

最初は口で伝えていたのが、メモをとってあげるようになり、そのメモが原作になって・・・その経験から今では原作も書くようになったそうです。

 

 

まだ話したいことはあるけど・・・

 

当時の編集者は小説を中心に読んでいた人たちだったので、ストーリーのアドバイスは出来ても、演出やキャラクターのアドバイスは出来ない。

しかし今の編集者は逆で、漫画を中心に読んでいる人たちが多いから、演出・キャラクターのアドバイスは出来ても、ストーリーが出来ない。

 

というか・・・どっちも出来ない編集者が増えていると、堀江氏は言われます。

 

「人間に興味を持たないし、演出面での勉強も足りてない。やっぱりわりと異動が多いからかな? ノウハウが蓄積されてない感じがものすごくするよ。」

 

だから漫画で、とても大切なものを担当した漫画家に描かせていないのだそうです。

 

それについても話したいですが、今回はすでに長くなってるし・・・他の本もそろそろ紹介したいので・・・

 

気になる方は是非、巻来先生の『連載終了!』を読んでみてください。

 

 

これを読んで、今の漫画に足りなくなったものがよくわかりました。

これを編集者が重視しなくなったから、打ち切り漫画が増えちゃったのではないかと。

 

 

いずれそのことについては記事にするかもしれません。

でもやっぱり、直接本を読んでもらえると嬉しいですね。

 

長くなりましたが、巻来先生の話はこのへんにしたいと思います。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

 

 

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